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人生の節目を飾る筆文字(17/03) [2005]

三月から四月にかけての入学・卒業のシーズンは、梅や桜の花が美しく開きます。日本人に生まれてきたことに喜びを感じる季節でもあります。謝辞、答辞等、人生の節目を飾る書き物をお預かりすることの多い時期で、私もそれらを書きながら心新たにスタートしようという気持になります。時には長文の弔辞を書かせていただくこともありますが、故人の過ごしてきた人生や人柄に触れるようで、つい何度も読み返してしまいます。会社における表彰状や感謝状の文面を読んでも、授ける側と、受けとる側の緊張した少し誇らしげな式典風景が目に浮かんでくるものです。
 特に卒業証書は、その悲喜こもごもの学生生活の想い出のつまった証だけに、書くのにもいつもより気合がこもるものです。子供が年を重ねていって、ふとしたときにその証書を見た時に、学校での生活が甦ってくるような、そんな役割を果たすこともあることでしょう。
 最近、文部科学省の諮問機関・文化審議会の国語文科会は文字の「手書き」の重要性を強調する報告をしました。ボタンを押して文字を作成していく行為が、漢字の習得や、文書を書きおろす力、情緒の安定等を育むのを阻害しているという指摘です。私の地元の小学校では、今年から卒業証書の名入れを手書きではなく、毛筆のワープロ書体で作成するとのことです。本来なら、読み書きを教えるべき学校が、忙しいから卒業証書は機械で、とは本末転倒甚しいと多少憤っています。子供達は先生のように上手に字がかけるようになれたらと、一生懸命根気の必要となる「書き方」の練習に励むものです。
 手で文字を書くこと、特に筆文字などは自分の内面が全て露呈してしまいそうで出来ることなら遠ざけたい道程かもしれません。それに敢えて自らに鞭打って取り組み、生徒と対峙すれば何かしら結果が出せるのではないかと考えています。「手書き」や「習字」という言葉にくくられる学習効果の研究はここ数年で飛躍的な進展を見せています。文化審議会の報告が緊急性を持って広く教育の現場に浸透することを願って止みません。