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万 年 筆(16/05) [2004]

最近、万年筆が大変よく売れているといいます。ポールペンやえんぴつといった筆記具の売り上げが比較的低調なのにもかかわらずにです。
あまり知られていませんが万年筆の実用化は一八八四年、米国のウォーターマンがペン先にインクの流出を調整する空気吸入装置を考案し、その特許を取得したことに始まります。タイプライターが同じく米国のレミントンによって実用化されたのが一八七六年ですから、歴史的に見れば、この近代筆記、印字手段の成立はほぼ同時に達成されたことになります。
現在の欧米における万年筆の位置は、趣向性の強い比較的高級な文具として人気があり、しかるべき時に自分専用の万年筆をとり出して手紙をしたためたり、サインを書いたりするのが主な使われ方のようです。
この万年筆が日本にもたらされたのは、この実用化の三年後、一八八七年(明治二十年)の頃です。当時の万年筆は大変高価なもので、夏目漱石位しか持てる人がいなかったそうです。
先日も、日本経済新聞社から、「万年筆売上げ好調の理由(仮)」と題して特集を組むので、なぜ万年筆が売れているのかを説明してほしい、との取材がありました。ビジネスの場面で、速く、誰にでも読み易く印字出来るタイプライター。一方、面倒で、ある意味では読みづらい万年筆書き。前者は指の運動としては単純労働作業であり、後者は、頭のいたる所を同時に大きく使用し、脳の可塑性に資していると言われています。清朝最後の皇帝、溥儀(一九〇六〜一九六七)も死ぬ直前まで自ら強いてペンで書くことを怠らなかったと伝えられています。また、欧米のトップマネージメント達は、本人自身ではほとんどワープロ書字、メールの発信を行わないといいます。クリントン大統領などは在任中八年間の間に自身で打ったメールの数はなんと2回だけ、それも、一件は誤発信、もう一件は宇宙飛行士にあてたテスト送信だったそうです。
日本語ワープロが普及し始めて早二十余年。そろそろ、欧米並みにタイプ書字と、手書きの差異に日本人も気付いてきたのかな、と感じるこのごろです。日本人がワープロ書字と手書きの違いをしっかりと認識をし、しかるべき使い分けがなされるならば、これだけの豊かな文字文化を持ち得る我が国をして、その夜明けは、そう遠くはないと確信しています。


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