「筆ペン練習帳」を書き終えて(2007年6月号) [2007]
「書家」としての職業柄、本物の筆を使うのが筋であって、筆ペンの類は意識して遠
ざけてきたというのが本音です。しかしながら先般「筆ペン練習帳」執筆のお話しを
いただき、改めてこれについて調べ、使ってみると、今迄は気付かなかった魅力があ
ることを知り、ひとつ視野が広くなった気分です。
筆ぺんが最初に発売されたのはセーラー万年筆からで一九七二年のことです。発売
当初の頃の筆ペンは「細字」一種類のみで、補充用の「墨つぼ」が付いていました。
私もこの頃は、好奇心からおもしろがって使っていたのを覚えています。
筆ペンが使われ始めてからおよそ三十年、筆ペンは確実に進化しています。「軟筆」
「硬筆」「毛筆」「太細両用」「カートリッジ式」など様々なタイプがあり、色も
「黒」「朱色」などはもとより、「金」「銀」といったものも見られます。またイン
クには「水性染料」と「水性顔料」の二種類があり、「水性顔料」は乾けば耐水性に
なり変色しにくく、一方、「水性染料」は色の種類が多く、仏事の際に使われる「薄
墨色」などの色目が出せるのが特徴です。
昨年は、えんぴつのなぞり書き本を二冊ほど書きましたが、えんぴつの使い過ぎで
人差し指のつけ根が痛んでしまったという経験をしました。最近では大量筆記をする
際や原稿用紙に書くときなどは、もっぱら硬筆タイプの筆ペンを使うようにしていま
す。指の筋肉への負担が少なく、頭を冴えてくるような気がして能率も上がります。
また、高齢になり、手が若干ふるえるという方にも、お勧めです。筆ペンは、そのぶ
れを吸収し、びりつきを抑えた線質の文字を作り上げてくれます。
ただ、本格的に「書」をなそうとするなら、やはり本物の筆にはかないません。使
用出来る墨や太さも無限ですし、潤渇や、筆勢を含めた線のリズム感といった高度な
表現は本来の筆ならではのものに違いありません。
ちょっと手にとり易く、携帯も出来、洗う必要のない便利な筆ペンです。「筆ペン
練習帳」を書き終えて、私の引き出しの筆入れの中に新しい顔が増えました。今後も
ますます手書きライフを楽しんでいくつもりです。