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硬筆と毛筆は何が違うか(2008年7月号) [2008]

 毛筆は硬筆より軟らかい。毛筆は硬筆より太い細いが筆圧によって使い分けられる。硬筆は毛筆よりも手軽で身近な筆記具である。…これらはすべて正しい見方です。
 硬筆とは、えんぴつ、ボールペン、万年筆など、先の「硬い」筆記具を指します。一方毛筆は、先が「毛」で出来ているものを指します。硬筆は毛筆と違い、筆圧の強弱によって線の太い細いがあまり出ないものです。だから硬筆は平面的で、毛筆は立
体的な活動だ、と決めつけるのは早計です。
 硬筆と毛筆の両方の指導をしているとおもしろいことに気がつきます。毛筆だときりっとした線質が描けるのに、硬筆になると線に滑らかなリズム感がなかなか出てこない人が意外と多いものです。硬筆が平面で毛筆が立体ならば、毛筆は硬筆にプラス上下運動を加えればよいわけですが、実際の違いはそれだけではありません。
 毛筆は毛先が軟らかいため、筆軸を 60度~70度に立てて書きます。硬筆は先が硬いので40度~50度位に寝かせないと書きづらいものです。毛筆を使い慣れてくると筆の腰の部分の弾力をうまく利用して、リズムよく抑揚や太細の効いた線が書けるようになります。その表現力たるや、にじみやかすれ、濃淡さえも含め、芸術の域に達する迄の奥行きを持っています。一方、硬筆はといえは、こうした表現力は望めません。
 ただし、硬筆でよい線質を追求しようとすると、筆先に弾力がない分、自分の指先のごく繊細な弾力を百二十パーセント発揮しなくてはならなくなります。実際、硬筆を上手に使いこなせる書き手が太めのフェルトペンなどを使って書くと、まるで毛筆で書いたような美しい抑揚のある線質が得られます。つまり、硬筆を使いこなす能力は、毛筆に含まれるのではなく、重複するところと、別なところがあるということ。つけ加えれば、硬筆は、毛筆よりも身近で、ある意味地味な存在であるかも知れませんが、それはそれで毛筆には真似の出来ない趣きがあり、それも硬筆の大きな魅力だということです。
 文具店に足を運べば、様々な筆記具が揃えられている恵まれた時代です。ぜひ色々な筆記具に挑戦してみて下さい。色々な筆記具との対話があなたの感性をきっと刺激してくれることでしょう。