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私流、展覧会鑑賞の作法(2008年9月号) [2008]

 四年に一度の東京書芸展九月二十六日(金)~三十日(火)の開催が間近に迫ってきました。出品される会員の方は、作品を仕上げられ、あとは展示を待つばかりのことと思います。作品完成迄には言葉に尽くせぬような労苦があったことと察します。本当にお疲れさまでした。
 一方、当然のことながら、作品は鑑賞者あってのものです。その作品の表現をどう
汲みとるかは観覧者の鑑賞力にかかってきます。私の場合、まず、展覧会場に到着したら、服装や顔色、姿勢を整えてから受付へと向います。受付に列が出来ている時などでも、早く順番がまわってこないかなどと考えず、静かな気分でまるで禅をしているような時間を楽しみます。受付の番になったら、一礼し「今日は知り合いが出品しているので寄らせていただきました」とか「まだまだ暑いですね」などと、何でもよいから一言発し、受付担当者とコミュニケーションをとります。芳名録は必ず丁寧に、書き直しの許されない書作品に取り組むが如く真剣勝負で書きます。たとえ後ろに行列が出来ていたとしても決して慌てる必要はありません。
 目録を手にしたら、一度ざっと目を通し、これを見てみたいというものを先にチェックしておきます。順路に添って、まず一つ一つの作品を同時間かけて鑑賞するようにします。展示作品に向き合うと、予想をしていたものと必ずや違った表現に直面し、鑑賞の心をゆさぶり始めます。これは素晴らしい、驚きだ、美しい、私ならこう書く、どうやって書いたのだろう…などなど。私事ながら、旅行に出かけるのと同様、展覧会の鑑賞は刺激が多く、実際のところ疲れる感じがします。
 ここで一度、会場の外に出、近くの喫茶店などで目録を見ながら一服を入れます。同伴の人がいれば作品に関する意見交換などをすると面白い鑑賞の切り口が伺えて新鮮です。しばらくすると、頭の中で今見てきた展示作品が整理されてきます。そこで
再び会場に向います。受付では目録をチラッと見せ、すでに受付が終わっていることを示し、軽く会釈をして通り過ぎます。二度目には、一回目とは違って比較的落ち着いた気分で鑑賞出来るものです。今度は気になった作品の前でじっくりとそれを観察します。前には気がつかなかった細部の創意や技巧に気がつくことが多々あるものです。自らの糧となる鑑賞はむしろ、この二回目の鑑賞ではないかと思いますし、鑑賞の疲れが心地よさに変わるのもこの二回目です。真の芸術はその背景に人物を求める、という言葉があります。展覧会場は、芸術を通した人と人との語り合いの場であることを忘れてはなりません。
 

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