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収穫を喜ぶ(2008年10月号) [2008]

今年も、暑い夏が過ぎ、一年で最も穏やかで過ごし易い季節がやってきました。読書の秋、スポーツの秋などと言われるのと同様、炎天下で鈍っていた筆を持つ手も心なしか軽やかに動くようになります。
 宋の蘇軾の言葉に「書を学ぶは急流を沂るが如し、気力を用い尽くして旧処を離れず」というものがあります。書を学ぶということは急流を逆行するようなもので、気力を使いはたす程懸命であっても、もとの場所から一歩も進まないということです。確かに「書」の道は厳しいものではありますが、この言葉はいささか大袈裟に聞こえなくもありません。これではいくら頑張って稽古をしても、ちっとも上達するわけではないからやめておいた方がよいということになりかねません。
 「書」の学習の特殊な面に「腕(書く実力)と同時に目線(見る目)も上がっていく」という点があります。それも目線は必ず腕よりも常に一歩先を進んでしまうので、自分から見れば日夜練習に励んでいるのにちっとも上達していないような錯覚に陥ってしまうのです。
 東京書芸協会では、そんな急流を沂り、気力を尽くし書の稽古に励んできた会員を表彰しています。今年も年間最優秀賞を始め、年間努力賞、最優秀作品賞、優秀作品賞を受賞された会員の方々が発表されました。自分の目に は見えづらい書の道のりですが、その中において確かな一里塚を印たことを心よりお祝い申し上げます。
 来たる十一月十六日(日)には東京明治記念館において表彰式が行なわれます。仲間と共に書の道の収穫を喜び、また次の道標を目指して歩んでいきましょう。