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書との向き合い方(2009年3月号) [2009]

 最近入会した生徒さんの中に、字形、点画の書きぶり、線質等に比し、配字感覚が突出して優れていて、紙面の余白を上手に生かして書くことが出来る方がいました。職業は何かと伺うと絵画系のデザイナーとのこと、納得しました。これも新入会の方、字形、配字、字粒の揃えなどは普通なのですが、基本点画の書きぶりの飲み込みがずば抜けて良く、訊けば手芸の趣味をお持ちとのこと、これも得心しました。新年会で同席した地元の市長さんの話し、近頃よく書を求められるとのこと。色紙などに好きな書を書くと、目立つところに飾られたりする。昔は上手でなければいけないと気持が強かったが、最近では自分なりに書けば、それはそれで面白いと楽しめるようになったそう。見ればなかなか質実剛健な筆致、書への姿勢は巧拙を超えてその人物の何たるかを露見させてしまうものだと実感しました。
 前に、ご紹介した三名の方々は、それぞれ職業書家を目指してるわけではありません。それでも、今迄一つのことを続けることによって培ってきた軌跡が書に見事に現れていることは確かです。逆に自らが書と向き合っていく中で、何をより磨いていくべきかが明らかになるという点で、やはり書は雄弁であると言えるでしょう。 脳の診断を受けると、習字をしている人の脳は実年齢より随分と若々しいという話をよく聞きます。例えば八十歳以上になると出現しやすい老人斑という脳のまだらが平均より少ないそうです。ただし、ただ手本をまねてそれを写し書きするだけでは効果が薄くなってしまいます。今日は墨つぎを少なくしてみよう、今日は手本を見ないで書いてみよう、細かい文字を大筆で肘を上げて書いてみよう、自分で詩や文章を作って書いてみよう…などなど稽古には様々な工夫の余地があるものです。メリハリのある稽古は苦手なところを楽しく克服するよい方法です。
 卒業、入学の季節、新しいことに取りかかる好時節です。今迄育んできたものを大切にしつつ、そこから脱皮してみようとすることは、書と向きあう上で欠かせないことと思います。

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