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書の道具のいろいろ(2009年6月号) [2009]

書道の道具といえば、一般にイメージされるところでは硯や筆、といったところでしょう。私の仕事場などは、さぞそうしたもので溢れていると想像する方も多いと思います。もちろんそのような品々は必備しております。しかし、訪れる人が、はてな?何に使うのだろうと首をかしげる物もあります。そんな道具をいくつか紹介してみましょ
う。(1)刃渡り15cm程のひどく切れの悪い出刃包丁(2)アイロン(3)水性の黒絵具(4)多種の紙やすり(5)シンナー (6)30cm 四方程の厚めのガラス板。
 答えを申し上げましょう。(1)は印章を刻す際に、印の輪郭に自然な欠けをつくる(撃辺という)ために用います。(2)和紙のしわを伸ばします。温度に注意して使わないと紙が変色するので要注意です。(3)布地に書く場合、水に濡らしさえしなければ、にじみの極めて少ない仕上がりとなります。(4)表札や看板に使う木材に墨汁で書く前に、表面をあらかじめ整えておくのに使います。使い慣れれば書きまちがえた時にこれで修正することもできます。また紙やヤスリでも修正しきれない程の深い墨痕が木に残ったら、カンナを使うしかありません。(5)金属やプラスチック、陶器などに書く際には、墨ではなく油性の塗料を使います。この塗料をうすめたり、筆を洗ったりします。この作業は強い刺激臭との戦いです。墨の心地よい香りとは縁遠い世界ですが、仕事として遭遇は避けられません。油性の塗料のねばり具合に合わせた筆使いをするのも技量のうちです。(6)このガラス板の上に紙を数枚乗せて、その上に作品を乗せて印を押します。市販の印褥(印台)は軟らかいものが多く、白字印(文字の部分が白く出るもの)にはよいのですが、朱字印(文字の部分が赤く出るもの)の場合、印のくぼみの部分が作品について印影を損ねることがあるので使い分けます。
 このような?な道具については、父から教わったものもあれば、本から学んだもの、人から聞いたもの、自分で考えついたものもあります。よい作品を書くために道具についてもどんどん学び、工夫をしていかなければなりません。ここで紹介したようなものでなくとも、例えば自分なりに相性のよい墨と紙を見つけてみるのも楽しいもの
です。心強い道具がだんだんと身の回りに増えていくことは、一つのことを長く続ける喜びに通じています。