SSブログ

初個展の開催にあたり(2011年6月号) [2011]

来たる六月二十八日(火)~七月三日(日)の六日間、東京銀座の鳩居堂で私の初の個展を開催します。そろそろ個展でも開かなくてはいけないかな、と思っていたところ、ちょうどタイミングよく推薦のお声をかけていただき、かような立派な画廊で個展を開けることになったのが三年程前のことでした。
 生来旅行に出かける時などは、期待と気合の分だけ荷物の多くなる性分で、やはり準備段階からオーバーヒート気味であったこと否めません。十丁型の大型固形墨が二本楽に磨ることの出来る、まるで工作機械のような墨磨り機を購入したり、古墨と言われるややプレミアムのつく固形墨を集めたり、印も篆刻作家と相談しながら三十顆程新調しました。もちろん筆や紙なども色々と吟味し選んでいったことはいうまでもありません。それらを整理したり並べ替えたり試し書きをして一人悦に入っていると、またたく間に時が経ち、個展の期日が迫ってきます。周囲からそろそろ個展ですね、と言われると胃が痛くなるものでした。
 個展の成否は作家の経歴や評価に直接結びつくだけに、それこそ逃げも隠れも出来ない正念場です。しかしながらいざ筆を執り書き始めてみると、難敵なれど組みすに心地よく、今の私にとっては負うべきプレッシャーかと、このチャンスを与えていただいたことに本当に感謝しています。この個展に向けた作品制作を通して文房四宝(筆・紙・墨・硯)やその他諸々の書に関する道具の知識を得られたことが大きな収穫でした。紙墨相発(あいはっ)すとはいいますが、紙と墨の相性によって実に多様な表現が可能であること。その他、受け売りではなく実体験としての書表現の可能性について学べたこと。これらがこれからの書作品の制作や指導の深みにつながることと確心しています。
 震災後、銀座はしばらくの間節電の為、明かりを大きく落としていました。そこは花の銀座とは思えない程不気味に暗く、日本はこれから一体どうなるのだろうかと思わせるかのようでした。最近ではその銀座にも人通りが増え始め少しずつ活気が戻ってきています。会員の皆様にはぜひ私の個展にお運びください。皆様の明るい笑顔が銀座の街に灯りをともすことを願っております。