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集中する力を高める(2011年7月号) [2011]

 子供にお習字を習わせている保護者のお話を伺うと、字を上手に書けるようにさせたい、と同じ位、集中力や落ちついて物事に取り組む姿勢を身につけさせたいという気持があるようです。
 私が教室で指導をしていると、やや多字数の課題になると終りの方で文字が乱れてくる成人の生徒さんがいました。最後まで気を抜かずに集中力を持続させて書くようにとコメントをすると、私は集中力がなくて、との事。そこで私が、集中力をつけるのもお習字をする目的の一つでしょうと返すと、しばし目をしばたたかせてから、何を言うのかと思ったら、目からうろこですよ、と表情を輝かせていました。
 長年指導をしていると、かける言葉が素通りしているな、と感じる時もあれば、何気ない一言が大きな励みになることもあるようで、この生徒さんの文字の質がその後大きく変わったことは言うまでもありません。
 文字を美しく書くことが出来なくても、実社会においてはワープロ、パソコンといった便利な機械があり、「手書き」の出番は減ってきているようです。学校を卒業して社会に出ると既にその人格と能力は完成していて成長することはない、ということはありえません。大人が子供の教育に熱心になるのと同じ位、自分の成長の可能性に汗すれば、子供に対する忠言も重みを増してくるでしょう。
 春の昇段試験が終わるこの時期、受験した全員が一様に成長しているようすが窺われます。画面に向かってボタンを押せば何でも楽に手に入る昨今、注意深く指を動かし、合格という目標を目指して頭を働かせることは、その人の智叡となって生涯離れない能力となるに違いありません。聞いただけ、知っただけの知識・能力と、労多くして得た力との間には、それを獲得する過程において違いがあるだけ脳にどう根付くかといった点で差が出てくるはずです。
 節電の折柄、時にはパソコンの電源を落とし電気のいらない書字活動にいそしむのも時流に適うようで、暑中見舞の葉書きを書いて涼を贈るのもよいでしょう。盛夏のみぎり、皆様の益々のご発展を祈念しております。