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年賀状を手書きする意義について(2013年12月号) [2013]

 サンクスレターという言葉は、「手書きの礼状」という意味だそうで、特に十代、二十代の若い世代を中心に使われていると聞きます。メールという言葉は本来「郵便」とか「手紙」の意味に使われるものでしたが、ここ十数年は「電子メール」のことを指し示す言葉として定着しています。時代によって言葉の使われ方は変容するものです。
 英国の元首相マーガレット・サッチャーは手紙をよくしたためたことで知られます。寝る間も惜しんで、飛行機で移動の間も書いたといいます。手紙を受け取った人達は、自国民にせよ、各国の要人にせよ、一国の首相が時間をかけて自筆した手紙を手にし、真摯な気持ちになったに違いないでしょう。
 英文タイプライターが実用化されたのは一八七〇年代の頃、サッチャーが首相の頃には、もちろん使われていました。ただし、文字のタイピング化の歴史の長い欧米では、手書きすべきか、またタイピングすべきかについては使い分けが行われており、例えばプライベートレターは手書き、ビジネスレターはタイピングして自筆で署名、といった区別が比較的きちんとなされています。
 タイプライターが実用化されてから三十年位経つと、ヨーロッパでは筆跡学の学校が出来はじめます。それまで文字は手で書くことがあたり前であり、それがタイピング出来るようになって、そしてはじめて手で書くことが一体何なのか改めて考え始められたわけです。
 今、日本は空前の美文字ブームだそうです。日本語ワープロが実用化して約三十年、歴史は繰り返す感のある現象です。通勤の電車の中ではスマホを操作し、職場ではずっとパソコンと向きあい続け、電話するよりメールで連絡。これでは手書きをする機会はおろか、話す機会さえなくなってしまいます。手書きをすることが生活習慣から奪われやすい昨今です。歩く習慣が健康を維持するのと同じく、一日の中で、意図して手書きする生活習慣を身につけることがよいであろう、という認識が若い世代から芽吹き始めていることは嬉しいことです。コミュニケーションには必ず出し手と受け手がいます。出し手は手の細かい動きを通して頭をひねり鍛え、受け手はその出し手の心に想いを寄せます。社会的に見ても、これこそ互恵的な生産性の高い活動になるわけです。
 そろそろ年賀状の季節。あて名書きなどはぜひ手書きしてください。脳と心の健康のために、ぜひ現代人が目指すべき生活習慣を始めましょう。