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「実り」課題の上手な取り組み方(2014年11月号) [2014]

 文字を上手に書けるようになりたい、というきっかけで習字を始める方は多いことでしょう。目に写る文字の形をよくせんがため、書いている言葉の読みや意味を知らないままで練習している方を見かけます。これは大変もったいないことだと私は思います。
 文字には三つの要件があります。「読み」と「意味」と「形」です。同じ線画を書くにせよ、それを「言葉」として書くか、「図形」または「絵」として書くかの違いで、左脳の言語野の活動を伴うか否かという違いがでてきます。習字をするのなら、「言葉」として「読み」と「意味」を確認してから書くことが大切です。
 この「実り」には、手本の下欄や脇に、その言葉の「読み」や「意味」が付記してあります。また、その言葉の作者のプロフィールや、背景なども書き添えられている場合もあり、「言葉としてイメージをふくらませて書く」ことの深化が図られています。これらの説明書きで、もの足りない方は、その言葉をさらに調べてみるのもよいでしょう。調べる時は、ぜひ紙の本を利用して下さい。インターネットを使えば、簡単に結果を表示してくれます。しかし、それは明日になれば最新の情報のものに変わっていたり、またその次の日には元に戻っていたりと「動く」可能性がある情報です。
 一方、紙の本には「奥付」というものがあり、「いつ」「どこで」「誰」が責任を持って上梓したかが明白で、一度手にしたら、それは外部から勝手に修正されたり、消去されたりしません。この紙の本の内容が正しかろうが、間違っていようが、そこに立ち帰って検証出来る研究の確実性や、発展性を保障してくれるところに、紙の本で調べる意義はあります。また、書棚の、この位置の、この装丁本の、この頁の、この位置に、探していた言葉が載っていたという記憶は、右脳頭頂葉の機能の加わった脳の活動となり、いっそう学習の効果を高めてくれます。これは、そろばんが電子計算機を使うよりも、人の「数」に対する能力を高めてくれるのと同じです。
 習字をするということは、科学的な文言にするとしたら「脳の前頭前野を中心とした様々な領域の活動を指向する視覚言語の学習」と言い表せます。手書きを見直すことは、また再び昔に戻るわけではありません。パソコンの出現によって逆に顕となった「手で文字を書く」ことの本質、新しい向き合い方を考える時代が到来していると捉えるべきです。「書」のある生活を享受するためにも、この「実り」を、これからもぜひ有効に活用して下さい。