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書に親しむ(2015年10月号) [2015]

 秋麗のみぎり、会員の皆様におかれては益々ご壮健のことと存じます。今年も年間賞の発表の時節が到来しました。地道な努力を重ね、書の道を実り豊かに歩まれている方々に対し、心より敬意を表したいと思います。
 表彰される方のようすを伺うと、受験勉強の最中にも習字の時間を捻出したり、仕事や介護で疲れている中でも書と親しんでいます。書をすることが欠くべからざる生活の一部となっています。書をなすことは、パネルにタッチして文字が出来上がってしまうのとは異なり、「止め」「はね」「払い」といった指の細かい動き一つとってみても面倒なものです。それに加え、配字や運筆のリズム感まで先を考えて書かなくてはいけないわけで、楽な方に傾き易いのが人情です。しかしながら、楽な方に進めば必ずしも楽になるとは限りません。日本語という、手書きすると世界で最も難しく、パネルにタッチすると逆に最も楽な部類の言語において、書を能くすることは貴いことに違いないはずです。
 手書きは、前頭前野を中心に、脳の広い範囲を同時に賦活させるため、落ちつきのある心や、学習する力を養います。多忙でも心豊かな毎日を送ることが出来るのは、書を真摯に向き合う生活習慣を身につけているからでしょう。
 書に親しむことが、世間の合理性と相容れぬような昨今、皆様のような姿勢が、結局は社会の豊かさをもたらすということをぜひ自信をもって伝えていって下さい。書に親しむには絶好の季節です。皆様のさらなるご発展を心より祈念しております。