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相手が読み易い字とは(2017年7月号) [2017]

文字が上手かどうかの一つの尺度に「相手が読み易い」という点があります。国語の作文や職場の書類を書いた際に「もっと読み易い字で書いてほしい」などと注文をつけられ、習字を始めたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 読み易い文字の代表例は「明朝体の活字」でしょう。たて画が太く横画が細く、また文字のまわりを含めて点画どうしが均等にデザインされているため、最も認識しやすい、つまり読み易い書体ということになります。実際、新聞や雑誌、書籍などの出版物のほとんどはこの書体を採用しています。ただし、この明朝体活字の書体は手書きするには不向きです。例えば「辺」という字などのしんにょうの左部分は、手書きではくねくねと曲がります。「令」の字の下の部分も手書きでは「マ」の形になります。読み文字と書き文字とでは、その性質が微妙に異なるのです。
 活字はあらかじめ用意された文字を「並べる」ものです。一方、手書きの文字は指で一点一画を描いていきます。明朝体活字のように手書きするとしたら、それはレタリング(図案文字)となってしまいます。手書きの読み易い文字は、明朝体活字の整斉さに、手書き特有のリズム性や表情の豊さが加味されていなくてはなりません。
 このような「相手が読み易い字」を手書きするとしたら、まずは筆記具の持ち方に注意すべきです。「虚掌実指(きょしょうじっし)」というように、掌(てのひら)にピンポン球が入る位の空間をとり、親指、人差し指、中指の先で三方から筆記具を支持します。この持ち方をすれば、筆記具の上下の抑揚運動を滑らかにコントロールすることが出来ますし、点画の向きの微調整や、細かい点画の連続した書きぶりも可能となります。また親指の先を使うことにも大きな意味があります。親指の動き
について脳が使われる領域は大変広く、親指を使った書字活動の大切さは、脳科学的な視点からも指摘することが出来るからです。
 身体から離れた読み易い文字が氾濫するこのごろです。肉声に耳を澄ませるがごとく、肉筆から感じとる力を衰えさせてはならないと思います。