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戌年の年賀状(2017年12月) [2017]

 年の瀬ともなれば、気になるのが大掃除や年賀状という方も多いのではないでしょうか。私も新たな気分で来たる年を迎えたく、書斎の整理や年賀状書きの時間を予定に入れています。
 最近は、私が研究している書字と脳の実験が佳境にさしかかっており、関係者の方々とメールでデータのやりとりをすることが多くなっています。研究や仕事に熱心に取り組めば取り組む程、パソコンに向かう時間が増えてしまう現実があるわけです。手書きは脳の様々な領域を同時に賦活させる活動であるだけに、便利な機械があるからこそ積極的に、意図的に手書きの時間を創り出すべきだ、とは常日頃申し上げていることです。
 その昔、私が大学の受験勉強中、高校の教師から手紙が届きました。数学の先生でしたが漢詩を作るのが趣味で、受験生を励ます内容の自作の漢詩を手書きで贈ってくださいました。卒業後、数十年を経て既に鬼籍に入られた先生を偲ぶ席で、数百人の同期の皆が同じような手紙をもらっていることが分かり、師の御恩の深さに頭(こうべ)を垂らさずにはいられませんでした。先生はがっしりとした体格で豪放磊落、長い顎鬚をなでながら、カッカッカッと笑うようすがよく記憶に残っています。朝、学校へと向かう駅前には、先生が生徒達を待ち伏せをしていて、およそ一キロの道程をよく先生と話しながら歩いたものです。気まずいことがあるときは、かくれるように大通りの反対側を行ったのを覚えています。教育というものは、言ってきかせるだけでなく、身をもって示すことが大切で、先生はまさにそれを実践されていました。黒板に書く文字はその風貌とは似つかわしくない愛嬌のあるもので、コツコツとやわらかなタッチで鳴る板書は、まるで心地のよい音楽を聴くようでした。先生の肉筆の葉書きはセ
ピア色になった今でも大切に持っています。
 来年は戌年。そういえば十月から開校した渋谷校の駅前にはハチ公像。そんな想いを込め、戌年の年賀状を書こうと思っています。来年も会員の皆様と共に書のある豊かな暮らしを送ることが出来ますよう祈念しております。