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書を能(よ)くするということ(2018年10月号) [2018]

 特別暑い夏が過ぎ、まだその疲れの癒えぬまま秋がもうやってきました。今年、西日本は大きな災害に見舞われました。八月末に私が仕事で東広島に訪れた時には、まだ山肌が茶色く露出したところが見かけられ、自然の脅威を目の当たりにしました。一体いつになったら人間はこうした災害を克服することが出来るようになるのでしょうか。
 科学の発達により、情報通信技術が身近な存在となる一方で、人間の注意や判断に関わる人災は一向に減らないような気がしてなりません。高度に発達した科学技術を使いこなすためには、それ相応の人間の能力が必要です。脳科学は、人間の様々な能力が脳のどの領域で行われているかをつきとめています。その領域の活動を促しながら、つまり考えたり、手で書いたりしながら理解していかなければ、読んだだけ聞いただけの、叡智とは無縁の知識となってしまうでしょう。
 「能書家」という言葉があります。「書を能くする人」という意味ですが、これは何も「文字を正しく整えて書く能力のある人」を指すわけではありません。「心の中身を描き出す絵」とも言われる書と向き合い続けられる人を指す言葉であると私は考えています。
 今月号ではその書を能くする方々が顕彰されています。すべてが楽に便利にという時代の流れの中で、自ら考え、自らと向き合う姿勢に深く敬意を表すと共に、そのような姿勢が、必ずや次代を築く大きな力になるであろうことを私は信じて止みません。