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‶実り″五百号達成(2019年9月号) [2019]

本誌″実り”が五百号を迎えました。昭和五十三年一月の創刊以来四十一年と八ヵ月、一月も休まず発行し続けられました事、諸先生方、会員の皆様、事務局職員の方々、関係各位に厚く御礼申し上げます。
 創刊当時は、まだ新聞なども金属で出来た活字を一本一本選んでそれを組み印刷をした時代でした。そもそも漢字かな交りの日本語をタイピングして作成するワープロ機能を備えたコンピュータが実用化されておらず、家庭、学校、職場など、すべてにおいて「手書き」をすることが当り前でした。
 創刊から十年を過ぎ、平成の時代に入った頃から携帯電話やコンピュータが急速に普及し始めます。この頃、学校教育において手書き教育の意義とは、とよく疑問を投げかけられたものです。「実り」は、このように書字環境が大きな変化を遂げる中、手で文字を書く意味について考えを深め、社会の求めるところと対話を続けながら、しっかりと成長してきました。
 今年、日本の大手製薬会社がアルツハイマー型認知症の新薬の開発を中止し話題となりました。この分野の新薬開発には世界で六十兆円以上もの開発費が投じられたそうですが、現在のところ、どこでも同様の結果に終っているといいます。人類が文字を手にして以来、文明は急速に進歩し、大きな繁栄を手にすることが出来ました。一方で、人の脳や心のあり様に起因する問題が頓に増加していることに気づいている方もいらっしゃることでしょう。
 百歳以上で元気に活躍されている方の共通の生活習慣に「書道」をしていることが挙げられる、というTV番組を視ました。文字の読みや意味を理解し、どのように美しく書こうかと考えを深めることは脳の様々な領域の同時進行的な活動を促すものであり、その活動はボタンを押したりパネルをタッチしたりして文字が作れるからといって代替されるものでは決してありません。
 人生のほとんどにおいて手書きをしてきた世代の方にとって、手書きは古く、過去のものとして捉えようとする傾向がよく見られます。一方、生まれながらにしてタイピングが日常である世代にとって「手書き」は興味のあるものと映っているようです。
 私は、それこそ有史どころか人類誕生以来の大きな転換期に時代はさしかかっていると考えています。それは便利さ、情報との距離の置き方など、人が今迄あたり前に追求してきた価値に対する問いかけです。
 書道教育は大変、公益性の高い事業です。その収穫は何十年か、何百年後に現れるものとも言えるでしょう。「実り」が遠い将来、どのように成長していくかに夢を馳せながら、これからも会員皆様と共に歩んでいきたいと思います。