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新しい書写書道教育(2020年1月号) [2020]

 令和二年の始まりです。昨年中は本会の様々な行事を滞りなく了えられましたこと皆様に深く御礼申し上げます。今年は十月一日から四日間、東京芸術劇場で四年に一度の展覧会も予定しています。挑戦する意気込みを大切にし、心を新たに取り組んで行きましょう。
 書写書道教育も転機が訪れる兆しが感じられます。明治以来、書写書道教育は国語の範疇で、実用の観点から、速く整えて書くことが追求されてきました。それが、動物の中で人間だけが発達して持ちうる判断や学習、創造、抑制、集中などという高次な能力の開発へとシフトする気運です。
 昨年の秋には様々な学会、研究会に参加しました。泊まりがけで遠方へ出向くことも少なからずあるものの、実際に会ってみて、直接聞いて感じられたり理解出来る事柄もあり、その分、収穫も本物です。
 書写書道教育の周辺領域の分野となると、国語関連が最も近いのですが、神経心理学や脳科学の分野でも「書く」ことの研究は盛んで、書教育の立場からも得るところ大です。興味深い点は正しい筆順で書けるかどうかなど、ほとんど書写書道教育の話ではないかと思われる研究も散見出来ることです。ただし、例えば脳の疾患によって「かな」だけが書けなくなったとか「漢字」だけが読めなくなったとか、失ってはじめてわかる人が読み書きをする脳のシステムの研究は、教育とはそもそもの目的が異なります。用語の使用の仕方も国語の分野では「作文」というものが、神経心理の世界では「自発書字」などと言ったりします。論文の書き方や研究手法などのマナーに違いがあります。脳科学の研究者に書写書道関連の論文を紹介したりすると、世の中に、たて書きの論文が存在することにまず驚かれます。学際的に研究することは、時代が大きく変化する中、極めて大切なことであることには違いありませんが、言いたいことがうまく言い表せないような、じれったい感覚が常につきまとうものです。
 そんな中、真摯に書と向き合おうとする方々、身を粉にして自分の役割をまっとうしようとする方々の姿勢にはいつも助けられています。今年が新しい書写書道教育の出発の年となるべく尽力していきたいと思います。