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紙を使いこなすには(2020年5月号) [2020]

少し前に、実用毛筆部で奉書紙を使う課題が出された際、皆さん色々なところで奉書紙を求めたようで、私の聞き及ぶところによれば、その一枚あたりの価格は十倍以上の差があり、また、書き易いとかにじみが強くて書きづらいとか色々な感想を伺いました。
 奉書は、もともと主の仰せを侍臣や佑筆が奉り出す文書の意味で、奉書紙はこの用途に使われた紙質のことを指します。楮(こうぞ)の皮が原料で、やわらかく厚みがあり、「主の言葉を奉る」に好適な紙といえます。サイズは約39㎝×53㎝と、懐紙(約36㎝×48㎝)より一回り大きくなります。厳密にいえば、このサイズは大奉書紙のことで、実際にはこれよりも小さい中奉書や小奉書もありますが、市販の奉書紙といえば、ほぼこの大奉書と決まっています。
 奉書紙は、そのふっくらとした紙質の由、目録などにも使用されています。奉書紙を六つ折りにして、さらに奉書紙でこれを包めば立派な目録が完成します。
 書き心地の面から考えれば、価格の低い方が書き易いといえるかもしれません。低廉な紙は、木材パルプを少しやわらかめに機械で漉いたもので、高価な方は楮を原料とした手漉きの紙といった違いがあるはずです。前者は比較的薄手ですが表面が硬く、にじみが少ないため書き易いと感じるのですが、後者は、そのふんわり感と違わずにじみも強いものです。ただし、このふんわり感や、にじみを味方につければ、書の表現はさらに豊さを増していくものです。善書は紙筆を選ばす、と言いますが、対峙しづらい紙と対峙するのも書の上達に欠かせぬ要件といえるでしょう。
 東京書藝展が近づいてきました。出品の構想は出来上がりましたか。作品制作には、まず題材を選び、構成、書体、文字の書きぶり等を決めていかなくてはなりません。古来より、紙墨相発すともいいますが、紙と墨の相性で、書の表現は大きく変わってくるものです。紙についての理解を深めてみるのも書を能くする上で大切な柱となると思います。