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印刷技術の発明と手書き(2020年11月号) [2020]

 十五世紀、グーテンベルクは近代的な印刷機の原型を発明し、アルファベット一字ごとに独立した文字を組み合わせる手法で活版印刷を創始します。それまでは一文字一文字を羊の皮で出来た紙に手書きしたものが「写本」として作られていましたが、この印刷技術の発明によって書物の大量生産が可能になります。ヨーロッパ中に書物があふれるようになり、文字の読み書きが出来る層も次第に増えていきます。欧米は活版印刷技術やタイプライターの普及が東洋より早いだけ、手書きにおいても研究が進んでいます。日本ではあまり知られていませんが、現在欧米の大きな大学には筆跡心理学科があり、国際学会が頻繁に開催されるなどその活動は活発です。
 日本においても鎌倉期頃までは書物といえば「写本」のことを指していました。読み書き教育は主に家庭で行われていましたが、これは教科書となる書物の少なさに起因するといえます。
 日本の印刷技術といえば、実のところ一五九一年から一六一五年の間の一時期、キリスト教によって金属活字がもたらされています。この活字は複雑な曲線で組み合わさった「変体仮名」で作られていました。キリスト教禁教によってこの製作は行われなくなりましたが、江戸時代、書物の普及は浮世絵の印刷と同じく木版の印刷によってなされることとなります。新聞(かわら版)や、「東海道中膝栗毛」「日本永代蔵」といった文学作品、寺子屋の教科書である各種「往来物」もこの木版印刷によって量産されています。書物の増加による読み書き能力の大衆化という視点から見れば、西洋のそれは十五世紀のグーテンベルクの活版印刷の発明、日本においては十七世紀以降の江戸期の木版印刷がそれを担っていたといえるでしょう。写本から印刷へ、文字の普及は技術の発達によりスピードを増していくこととなります。
 毛筆という表現力豊かな道具を用いて数万の種の複雑な文字を書き分ける東洋の文字文化は、手書きすることを芸術の域に迄昇華させています。文字を手書きすることについて考える際、使用する文字の体系やその歴史について理解を深めることが大切です。