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正しい持ち方で美しく書くということ(2021年11月号) [2021]

 職業柄、筆記具を持って文字を書いている人を見かけると、その姿勢や持ち方をついつい観察してしまいます。生徒はもちろんのこと伝票を書く人、テレビに映る人などその場面は様々です。海外の筆記具の持ち方に関する文献も読むことがあります。外国語の表現の翻訳ですが、「達筆」「正しい持ち方」という記述があり、その正しい持ち方の写真やイラストを見ても、日本のそれとまったく同じです。正しい持ち方で美しく書くことに国境はありません。
 硬筆を持つ際、正しいとされる持ち方は、右利きの人なら中指の先の左側と、人差し指、親指の先端の三方から筆記具を支えます。掌は、大人ならちょうどゴルフボールが入る位の空間をとります。この持ち方であれば、筆先からくる微妙な圧力を細かく感じとり、またコントロールすることが可能です。習字においては筆記具を握るようにして書くことはよろしくないとされています。特に親指の先を使わなかったり、掌の空間を確保しなかったりすると、前述のような働きが難しくなります。子供の筆記具の持ち方を直してほしいという要望が多くの保護者から寄せられます。正しく持つことは美しく書くことにつながり、また、美しく書くことは正しい持ち方へとつながります。
 人の声が皆違うように、手書きの文字も一人一人異なります。人の声のイントネーションがその人の言わんとしていることを補完するように、手書きには書き手の表情がこめられます。ただし話すのと比べ書くことは、文字知識や視空間認識を必要とし、それを手指の細かい動きをもってリズムよく構築することが求められるだけに大変ですが、脳を大きく育む活動に他ありません。
 映像や対面で海外の人たちを見ると、日本人より正しい持ち方をしている人が比較的多いように感じます。アルファベット圏などにおいては日本の書道に一致するような芸道がないからといって、手書き教育がおざなりにされているわけではありません。逆に、筆跡学の発展を始め、手書き教育は海外の方が進んでいるともいえます。正しい持ち方で美しく書くことを目指すことは、デジタル社会といわれる昨今だからこそ、大切にすべき生活習慣であるはずです。

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