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脳を育む情報とは(2021年12月号) [2021]

 「情報」といえば、文字、形、動画、写真、音声といったものが思い起こされることでしょう。特に「視覚」は人間やサルが進化の過程で見ることへの依存を大きくし、視覚の重要性が増した影響で、他の動物よりもこの感覚が発達したといわれています。
 「道徳の教育は耳より入らず目より入るものなり」と福沢諭吉の言葉にもあるように、言葉よりも視覚に訴えた方が、時に効果的であることは、私も指導経験から同感です。現在、脳科学の発達により、他の人の動きを見ることによって、さも自分が同じ動きをしているように感じる脳神経細胞の働き「ミラーニューロン」の存在が明らかになってきています。基本的な学びを習得する際には視覚情報を活用することは大切です。例えば書の学習の場面でも、指導者が実際に書いて見せることは学ぶ人にとって得るところの多いものです。
 情報教育は、主に視聴覚の情報をどう読み解き、活用していくかが課題となっています。一方、脳は前述のように視覚情報に大きく依存しつつも、他に、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、それに温覚、冷覚、圧覚、平衡感覚、内蔵感覚、姿勢を維持したり筋肉や関節の深部感覚など、実に様々な情報を認識し読み解いていきます。脳における「情報」は、視覚、聴覚だけではなく、こうした脳のあらゆる領域を以て消化されていくものであり、日常生活の中で経験する事象そのものすべてが脳の成長にとっては栄養豊かな「情報」になるわけです。コロナ禍にあってリモート授業が行なわれる中、対面での教育が見直されるのは、このあたりにも理由があるのでしょう。
 OECD加盟二九ヵ国が参加する二〇一二年PISA(学習到達度調査)のビッグデータを活用した二〇一五年のPISA調査委員会の分析結果によれば、学校でコンピュータの活用時間が長くなると、学力は低くなると報告しています。なぜこのような結果になるのかという問いに対し、PISA調査委員会は、コンピュータは情報や知識の獲得、また浅い理解には有効だが、深い思考や探究的な学びには有効でない、との解釈を与えています。目下、私の書斎は年賀状作りで沢山の書籍や筆墨、画材でひっくり返っています。このような状況も楽しい学びと創造につながっていくのではないのでしょうか。