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心の健康と書道(2007年1月号) [2007]

 あけましておめでとうございます。例年通り会員の皆様方に年頭のご挨拶が出来ま
すこと喜びに絶えません。仕事とプライベートの両面で何やかやと重荷を負わなけれ
ばならない世代となりましたが、気力体力共に充実して日々過ごせるのは、関係各位
のお力添えの賜と心より感謝しております。
 世間では 時代の幕開けとばかりに老いも若きもパソコンや携帯電話に夢中といっ
たお祭りさわぎも一段落し、一歩距離をおいてそれが我々に何を与え何を奪っていく
のかについて考え始めているようです。ポールペン字練習帳や、えんぴつなぞり書き
の本がベストセラーの仲間入りするこの頃、何年か前、手書きとか習字はなくなる、
と真顔で語っていた人もなりをひそめるようになりました。
 一方で、「心」の問題に起因するトラブルは絶えることがありません。その「原因」
については、いまだ学者の中でも意見が分れるところであり、決定的な解決策はいま
だ打ち出されていません。
 心の病の治療にかなり以前から書道が取り入れられているということをご存じでしょ
うか。特にフィンガーペインティングといった指にそのまま絵の具等をつけて篆書体
等を書くのが人気で、病院の中では作業療法士といった資格を持つ方が実際にその任
にあたっています。こうした治療は特に認知症や統合失調症において効果を上げてお
り、例えばおむつがとれたとか、いじめなどの問題行為がなくなるといった心の病の
回復にも寄与しています。
 「心の健康」と「書道」といった従来なら科学的な関係が認めるところではなかっ
たものが今巷でも話題に登るようになったのは脳科学の発達のお陰でもあります。
 昨年六月に日本では初めての筆跡学の世界大会が開かれました。文字の書きぶりと
心の状態の関係という欧米では大きな研究領域となっている分野が、やっと日本のよ
うな高度な文字文明の中でも取り組まれるようになったのかと感慨しきりです。最近
では我が国でも心の問題に端を発する事件を起こした人の筆跡などが公開されること
がよくありますが、その筆跡を鑑定してその人の心のようすを推し図ろうというとこ
ろまでは到っていないようです。しかし予防といった面からも、日本人がもっと自分
たちの文字についての関心を高めていく必要があります。心の中身を掻き出す絵とい
われる手書き文字です。新年にあたり「心の健康と書道」について研究を掘り下げて
いくことを誓うと共に、まずは皆様からいただいた賀状に目を通すとしましょう。