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筆と筆ペンの違いについて(16/02) [2004]

普通の筆と筆ペンの違いについてよく質問を受けるのでお答えをしておきます。
筆は筆ペンと違って墨が枯れる都度、筆先に墨を含ませなくてはならず、使い終ったら洗っておかないと固まってしまう、扱いが面倒な代物です。一方、筆ペンはそれこそポケットにしのばせておいて使う時だけキャップをはずし、また墨つぎをする必要もなく、使い終れば再びキャップをしめればよしという便利な筆記具です。その書き心地も、毛質やインクの改良によって普通の筆と違わないのではと思わせるものさえ開発されてきています。筆ペンの出現によって普通の筆は不用なのものとなるのでしょうか。
ここで一つ注意しておきたいのは、普通の筆は、墨を筆で含ませてから枯れていくまで漸時、毛から吐き出される墨の量が逓減しているという点です。ロボットに毛筆を扱わせてみると、ただ力を加えているだけではキリッとした線質が得られず、どの位紙面に筆圧がかかっているのかを感知する機能を加えないと、ハネとかハライがうまく書けないそうです。
人間が何らかの動作をなす際には、この二点つまりどの位、体に圧力がかかっているのかを敏感に知覚する能力(体性感覚)と、それを瞬時に分析していかに体を動かすかを決定する能力(運動覚)を同時に使用しています。筆ペンは同じ太さの線を同じスピードで書く場合、手にかかってくる圧力が常に一定ということになります。一方、筆の場合は、墨量の逓減によって手にかかってくる微妙に変化する圧力を察知し、それをコントロールしていかなくてはなりません。
確かに筆ペンは便利な道具です。しかし、指の使用が人体の体性感覚と運動覚の四割を占め、また思考を伴うその動きが人間の高次機能を育むことにつながると判明してきている現在、この実用的とは言い難い“普通の筆”の存在が逆に重みを増してきます。