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つらくてもした方がよいこと、楽しくてもすべきでないこと(2008年1月号) [2008]

あけましておめでとうございます。本会も今年で創立三十周年という大きな節目を迎
えました。身の回りの環境の目まぐるしく変化する昨今、本会も蓄積してきた書の知
識を社会に還元していかなくてはない時節が到来していると感じております。
 教育の環境一つをとってみても、一方で英語特区があるかと思ったら、一方で日本
語特区がある始末です。子供達がまるで大きな実験台に乗せられているような感じが
しながらも、それを容認せざるを得ない難しい時代を今、我々は生きています。
 長い間、書の指導者をしていると、色々な経験をするものです。中でも強く記憶に
残っているのは、習字がつらくて仕方がない、と泣き出してしまう人が大人でもけっ
こう多いということです。そもそも習字という作業は文法、語彙、空間認知、指の細
かな動き、記憶、等々…あらゆる脳の能力を並列的に使用することを指向する、人の
行為としては極めて特殊な行為です。ですから、脳への負担は大きく、楽しいからす
るというものではありません。ただし、これをなすことにより情緒、コミュニケーショ
ン能力、判断…などといった生物の中で人間のみに備わる大切な能力が育まれてきま
す。
 例えば熱い鍋にさわって熱くてもがまんしていたらやけどをしてしまうように、が
まんしなくてもいいことはもちろんあります。一方、楽しいからといって酒ばかり飲
んでいれば病気になります。「書」が楽しくてしょうがない、という人も中にはいま
すが、少しぐらいしんどいとか、もうやめたいという人の方が圧倒的に多く、歯をく
いしばってがんばっている人程、着実に高みに登っていきます。
 つらくてもした方がよいことと、楽しくてもすべきでないことは、往々にして判断
に悩むところでもあります。つきつめて考えれば、こうした判断を自らなせる人こそ
が真の意味で自立した人間であるといえるでしょう。年頭にあたり、会員の皆様の実
り多きを祈念し、激励の言葉をお贈りいたします。