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新しき年を迎えて(2011年1月号) [2011]

 平成二十三年の幕明けです。昨年は、かな書道部の設立、誌上展の開催、開明墨汁工場の見学など様々な事業を行うことが出来ました。また、この実りの発行を始め表彰式などの年中行事も無事終えることが出来ましたこと、会員各位に深く御礼申し上げます。
 今年、私は六月二十八日(火)~七月三日(日)迄、東京銀座の鳩居堂で個展を開催する予定です。初めての個展ということで、日頃の研鑽を披露する大切な機会と捉え、目下作品の制作に鋭意取り組んでいます。この個展に取り組むという仕事は、私にとって新しく刺激的な作業です。
 「ころがる石には苔はつかない」(A rolling stone gathers no moss.)という西洋の諺(ことわざ)があります。また一方で本邦には国家にも歌われているように「……さざれ石(いし)の巌(いわお)となりて苔のむすまで」(小石が成長して大きな岩となって、それに苔がはえるまで)という相反するような言葉もあります。この二つの言葉は東洋と西洋の価値観の違いとして引用されることもありますが、実は言っていることは同じなのではないかと思います。私も、常に清新で活動的であるように心がけてはいるものの、いつの間にか心に苔(こけ)、悪い意味で言えば錆が出ていることもあるでしょう。石の上にも三年とがんばっていたことが、実はいつの間にかそこに安住しきり、頭が固くなっているということもあります。心に錆が出ないように磨きをかけつつ、同じことを続ける忍耐力を持つことの大切さに洋の東西はありません。
 ただし、何を続けるべきかそうでないか、新しいこととは一体何かについて、当の本人に判断のつけようがない場合がしばしばあるものです。そんな時には信用のおける隣人の助言を仰ぎ、それに耳を傾けることが大切です。自分の美しい苔や、古びた錆は自分からは見えにくいものだからです。
 「筆硯佳友(ひっけんかゆう)を得る」という言葉があります。筆硯、すなわちお習字をするとよい仲間、隣人を得られるという言葉です。皆様が今年、よき隣人に恵まれ、健康で豊かな一年を送られますこと祈念し、年始のあいさつとさせていただきます。