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人間の底力を信じる年に(2012年1月号) [2012]

 列島全体がいまだ大災害の傷の癒えぬ中、平成二十四年の幕が上がりました。昨年は長い間暖めてきた個展も開催することが出来、私にとっては書家人生の大きな節目となりました。ご支援いただいた方々には改めて御礼申し上げます。
 筆で文字を書くというアナログな仕事に従事していると、昨今の科学の進歩はまさに近未来を具現化しているかのように見えます。しかしながら同時に、その人間が生み出した科学の力を人間自身が制御しきれなくなっているのではないかという事象も起こり続けています。
 パソコンのワープロ打ちは人が手で文字を書く労をなくし、インターネットやSNSは家から一歩も出ずとも莫大な量の情報を得たり発信したり出来るようにしてくれました。ビジネスだってパソコンの前に座ってボタンを押してさえいればすべて用が足りる時代が到来しつつあります。ただ、人が昔夢見たこの現実の社会は果たして今後未来永劫に続いていくのでしょうか。どうしても歩かねばならない、ということがなくなり、恥ずかしながらも手で文字を書かねばならない、ということがなくなり、メールのおかげで相手の時間やご機嫌を伺いながら電話で会話をしなければならない、ということもなくなってきています。生きていく為には「…しなくてはならない」様々な困難を乗り越えて先に進んでいかねばならないはずですが、このような「…しなくてはならない」ことから現代の科学は人を開放してくれました。しかし逆に考えれば、いやがおうでもしなくてはならない試練を経て人は年を重ねる程に成熟してきたともいえます。
 人間が太古の昔から続けてきた、生きるための行動とその人間性の成長の相関関係が崩れてきているように感じられて仕方ありません。便利な機械の溢れている昨今、少し立ち止まり自分の内にあるすばらしい玉を磨くことについて考えてみることが必要だと思います。
 会員の皆様方の今年一年の御多幸を祈念しますと共に、平成二十四年が人間の底力を信じられるような、そんな年の始まりであるよう念じています。