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碑林公園と和紙の里を訪ねて(2016年8月号) [2016]

 去る六月三十日、書の学習の一環として山梨の大門碑林公園、なかとみ和紙の里、雨畑硯の産地を訪ねました。
 大門碑林公園には、「九成宮醴泉銘」の復元碑など、大型の石碑が十四基展示されています。日頃、我々がその拓本で臨書する古典が、もとはどのような形状であったのかが分かります。書学者にとってはぜひ見ておくべき史料です。中国陝西省博物館の中にある西安碑林などに行けば原碑を見ることは出来ますが、風化や損傷により、立碑当時のようすを窺うことは困難です。大門碑林公園の復元碑は、古い拓本と照らし合わせながら、建立当時の石碑のようすを伝えてくれます。本などからでは伝わってこない厚みや重みといった質感を体験することが出来、書の学習に弾みがつくことまちがいなしです。
 次に訪れたのは紙漉き工場の見学です。身延町の西嶋は、町を挙げて和紙の生産を行っています。我々が日頃使用する半紙ですが、その製造工程を実際に見るのは、私も初めてでした。例えば、紙の表と裏がどう決まるかなど、今迄耳学問であったことを、間近で窺うことが叶い、積年の疑問を晴らすことが出来ました。手漉きの紙を八十度の鉄板で乾燥させる場面では、棕櫚の刷毛で紙を伸ばす工程があります。手漉きの半紙の裏に波のような筋があるのはこのためです。この刷毛さばきが見事で、またその棕櫚の刷毛をさわらせてもらったりして、まさに紙造りを体感させていただきました。
 帰りがけには、日本を代表する硯の産地である雨畑を訪ねました。硯はつるつるしすぎていても、ざらざらしすぎてもいけないもので、その点雨畑硯の墨のおり具合が絶妙です。今回の旅の土産に一面手に入れて参りました。
 書道の醍醐味はこうした書道史の現場に触れてみたり、文房具を使いこなすことにもあります。この極めてアナログな感覚を呼び覚ますことが、現代を生きる我々にとって必要なことなのではないかと改めて考えさせられた一日でした。