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落款印について(2022年3月号) [2022]

 作品を書いた後、作品の端に年月日や詩文の作品名、題名、自分の名前などを署し、印を押して完成の意を表します。学生部の作品にも、学年や名前を書き、完成を示します。これらを総称して落款と呼びます。
 落款という語は、「落成款識」を略した言葉との説があります。一般に「落成」とは書画の完成を意味し、「款識」は署名捺印のことを指します。「款識」は主に周時代につくられた古銅器や祭器に鋳込まれた文字で、「款」は凹なる文字、「識」は凸なる文字のことを意味します。
 落款に使われる印は古くから、中国で信を示すために用いられてきましたが、日本では、現存する中世以前の書には見られません。中世より明との貿易がさかんになり、宋・元・明の書形式が伝えられてから、日本で中国式の落款や押印がされるようになったのです。
 さて、近年、内閣府により「押印廃止プロジェクト」が進められています。身分証明のために印を使用する国は、現在の世界では日本のみといえるほど、珍しいようです。しかし書画の世界では、押印廃止の潮流は、おそらく無いでしょう。押印は完成の意味合いのほかに、作品への装飾的な要素が多分に含まれるためです。印と書の相互関係は作品全体の出来を大きく左右します。
 落款に使用する印は姓名印(主として白文)、雅号印(主として朱文)、堂号印(書斎の室名。主として朱文)、引首印や押脚印などです。成語などを用い作品の上部(頭の部分)に押すのは引首印、下部に押すのは押脚印と呼ばれるなど、押す位置にもゆるやかな決まりがあります。印の大きさは、一般的には落款の文字よりもやや小さめがよいでしょう。しかし絶対ではなく、本文や落款の文字との調和が重要視されます。
 今月号の「実り」には、毎年恒例の学生部の書き初め作品が掲載されています。作品に調和するように年号や名前が書けているか、印は使用せずともよいですが、押してある場合には作品に対しどのような効果があるか、それもみどころの一つです。しかし学生の作品ですから、難しく厳しく考えるのではなく、落款に興味を持つきっかけになれば良いと思います。