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片方の手を使う手書きか  両方の手を使うタイピングか(2022年2月号) [2022]

脳の右半球は、体の左部分からの情報を受けとり、これをコントロールします。また左半球は体の右部分からの情報を受け、これをコントロールします。これを「交叉支配の原則」といいます。
 手書きとタイピングの脳の賦活実験によれば、右効きの人が手書きした場合、タイピングより手書きの方が左半球の活動が活発になります。これは手書きの方がタイピングより複雑な感覚や運動を処理するからと考えられます。一方、右半球の方はどうでしょうか。右手のみで行う手書きよりも両手を使うタイピングの方が右半球の活動が高まると思いきや、実際には手書きの方が脳の右半球の活動も活発となります。
 手書きする際、ほとんど使わない左手を支配する右半球がなぜタイピングよりも賦活が高まるかについては二通りの説明が出来ます。まず第一に左右脳は脳梁によってつながれており、左右の脳が共調して働いているという点です。つまり、左半球の活動が高まれば、その反対側の右半球も活動を始めるということです。第二に、右半球は主に、空間的な認知と構成の役割を担っているという点です。手書きはタイピングと比べ字形や筆順を考慮しなくてはならないため、この空間構成の要素が影響しているとも考えられます。いずれにせよ両手を使うタイピングよりも手書きの方が脳の左右両半球共に活発になることを考えると、教育の上で手書きすることの意義はまた明らかになります。
 ノルウェー科学技術大学では、二〇二〇年に脳波計を用いた手書きとタイピングの実験を行い、これも同じような結果を導き出しています。社会におけるICTの存在価値を認めつつ、手書きすることが脳の様々な領域とつながりを促す行為であり、教育上重要であるとまとめています。今後、これらの研究の積み重ねが高度に進化した科学と人間がどうつき合っていけばよいかという課題に答えを導き出してくれるかもしれませんし、また書をする私たちもこうした事実と真摯に向き合っていくべきでしょう。