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書の道は歩みて止まず(2023年10月号) [2023]

 史上最高の猛暑でお疲れの方も多いのではないでしょうか。それでもコロナ感染症に対する警戒が薄れたこともあり、行楽地は多くの人で賑わったようです。今まで行動を制限されてきただけに出掛ける楽しさもひとしおでしょう。季節はめぐり、文化に親しむ秋が到来しました。心を落ち着かせて筆を執り、書をしたためるには絶好の時節です。世間ではデジタル化推進が叫ばれていますが、私はデジタル化イコールタイピング、アナログイコール手書きとは考えていません。手書きについての研究は、人工知能、行動科学、応用脳科学といった側面から熱い視線が注がれており、科学の最先端の話題です。手書きをすることはデジタルを使いこなす格好の手段であると私は捉えています。
 新しい技術イコール善いもの、とする考え方はいかがなものでしょうか。目に見えず、また知覚もされない新しい便利な機械には、相応の科学の検証が必要です。例えばX線技術が開発された頃、これは便利ということで靴を作る際、足型をこれで撮るということが行われていました。しかし放射線の被爆という影響が知られるようになり、今は行われていません。デジタル技術は人間の暮らしを豊かにしてくれる面がある一方で、それに依存することによって人の身心にどのような影響があるか多くの人にはまだ知られていません。
 手書きの大切さは洋の東西を問わず広く認められ始めており、習字教室に通う子供は少子化といわれる中でも増え続けています。大人も手書きをする意義をよく考え、生活習慣として生涯にわたり書と歩みを続ければ、世界でも最高度の文字文化を擁する我が国は、再びその輝きを増すことと私は考えています。爽秋のみぎり、会員の皆様のますますの御健勝を心より祈念しております。