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ボールペン字の流行(18/04) [2006]

「ペン習字」というと多少専門的な練習に感じるけれども、「ボールペン字」というと、とたんに身近にきこえてくる人が多いようです。ボールペンは複写式の伝票が職場で広く使われるようになった昭和の中頃以降、誰もが手にする筆記具となりました。現在では改良が重ねられ、大変書き心地のよいボールペンが作られています。
 習字の指導者からすれば、ボールペンだろうが万年筆だろうが、サインペンだろうが、字形のとり方は同じなのだから、何もボールペンにこだわらなくてもよいのではと思うのですが、今、「ボールペン字練習帖」と銘打つ本が飛ぶように売れているそうです。「ボールペン」という言葉には、ビジネスや生活の場面に直結した響きがあるからでしょう。
 売れるとなれば出版各社こぞって作り始めるのが常です。私が知る限りでも同じような版型と内容のものが、五、六冊はあります。私にも一冊書けとの依頼があり、類書の多いせいか、早いところ仕上げるようにとせかされ、三週間で書き上げました。
 巷では万年筆がよく売れていたり、ボールペン習字の練習帳が人気だったりと習字の指導者にとっては喜ばしい現象が続いているといえるでしょう。時代の流れに遅れまいと、パソコンをたたくことを是としていた人達が、しまっておいた筆記用具をとり出してきて書くことを楽しみ始めているのです。 企業大手の 氏率いる 社でさえ、会議のときはノートとペンを使わないと頭が動かないぞ、とその価値を認め実践している程です。
 ここで、はたと考えると、ほんとうにこの状況は好ましいのかどうか首をかしげることがあります。字の形が美しいか、もしくは人目を引くような奇抜ささえあればそれでよし、という風潮には同感出来ません。古来より文字を書く能力には、文章を書きおろす力や社会性などが伴ってはじめて本物であるといわれてきました。このことは「唐様で売家と書いて三代目」という言葉にも現れているような気がします。
 手書きが見直され始めていることは実感出来ます。しかしながら、それがあらぬ方向に向かぬよう注意を喚起していくことも我々書学者たちの重要な役割です。日々のお稽古の中でぜひこのことについて考えながら学習を進めていくようにしてください。