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日本の文字を美しく書こう(16/09) [2004]

懸針、垂露、奔雷、墜石、鴻飛、獣駭、鸞舞、蛇驚、絶崖、頽峯、臨危、拠槁……これらは一体何を表している言葉かご存じですか。
 学校では、漢字を学ぶ際に基本となる点画の書き方を習います。例えば、止める、はねる、はらう、等です。「基本点画」とあるようにもちろん応用編もあります。懸針だったら針のようにするどく抜く。垂露だったら露が垂れるが如く丸みをおびながら抜く、といったように同じ「抜く」にしても様々に変化させるわけです。冒頭に掲げた十二の熟語は、すべて点画を書くときの筆さばきの表現です。熟語を見ると何となくその筆使いが目に見えてきそうですね。
 現在、小学校から高等学校まで、文字を書くという学習の中で、「整えて書く」という文言は見えるものの、それを「美しく書く」という文言は見えません。最近では、キーボードばかりで文字を打っているので漢字を忘れてしまうといった人が増えているようです。そもそも漢字のような種類の多い繁体な文字を覚える為には、指の筋肉の微妙な収縮といった動作を伴うことが必須となります。このことは科学者達からも指摘されており、習字教育の大切さが書道教育者からではなく、他の分野から叫ばれているという始末です。
 基本点画を習得し、文字を書くことがある程度自動化された運動として頭にインプットされた大人にとっては、ただそれを惰性で書くのではなく、今迄に使ったことのないような筆さばきを用いつつ文字を書きつづることが大切になります。文字の習得が指の細かい変化に富んだ運動によってなされ、しかもおもしろいことに、これが言葉をつむぎ出したり、理解することに関連していると分かり始めている昨今、ただ整えて書くだけではない「美しく書く」ことの重要性を見直す必要があります。