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筆を尊ぶ(2007年4月号) [2007]

 よく、筆はどのくらいもつものなのかという質問を受けます。感覚的に言えば、毎
日使ったとしても、当会お薦めの筆(白菊、流水など)なら、三ヶ月~半年はもつも
のです。筆には命毛という先の鋭った部分があります。これが使用によって折れて切
れていく(「折れ切れ」という)にもかかわらず、先がシャープなままである毛があ
ります。このような毛を「のどが遠い」といい良質で長持ちしやすい白菊や流水など
の筆の材料となります。一方、おろしたての頃によい書き味がするものでもすぐに先
が丸くなってしまうものは「のどが短い」毛を使用していて一般に安価です。
 もちろん筆は一本一本手作りですし、同じ銘柄でも微妙に使い心地が違うものです。
出来ればいつも使う筆は二本用意しておいて、その日調子のよさそうな方を使ってみ
るのもよいでしょう。その他、洗い方などの手入れによってもその寿命は変わってく
るものです。ふとした時に他の人の筆巻きの中を見せていただくことがありますが、
ある程度使い込んだ筆であるのにもかかわらず、筆先がしゃんと整えてあり、またそ
れなりの筆の種類が用意されている人はやはり上級者です。こと筆に関しては、筆の
使用法の理論をあれこれ頭につめ込むよりも、まずはたくさん練習して筆という道具
と仲良くなることが筆を理解し使いこなすための王道に違いありません。
 中国の能書家、智永は大きな竹籠に使い古した筆が五杯たまってはじめて書法を悟っ
たと言われています。また項羽のように書を学んでも書の世界で大成しなかった者も
いますが、習練を積まずして王羲之や王献之のような名筆家になったものはいません。
 文房四宝の常に筆頭に位置する「筆」です。これをよく知り、尊ぶ心を育むことも
「書」をする者にとって必要なことです。