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人十字を写さば百字を学ぶ(2009年5月号) [2009]

 「実り」も三七六号目となり、また私が手本やこの巻頭言を担当してちょうど本号
で十年となります。百二十号分を発行し続けることが出来ました事、支えて下さった
先生方や会員の皆様に感謝申し上げます。
 実りで学ぶ方々が、書の奥深さと豊かさを享受しながら、着実にその心技を高めら
れるよう努めてきましたつもりです。が、月刊誌で、年中行事がある程度決まってい
る由、内容が惰性に流されないようにするのが精一杯であった感止まれぬ点、反省す
べきは今後に生かす所存です。
 「言葉を手で書く」という、自覚は表れないものの、脳や心にとって大変特殊で大
切な作用をなすということは折に触れて本欄でも述べてきました。教室でも、その形
や筆使いだけでなく、読み方や意味の確認と併行して学んで頂いている点はここにあ
ります。
 紙面の刷新については、日頃より懸案としてあれこれ考えてはいるものの、拙速に
始め頓挫すればかえって学習者が混乱するばかりとなります。「かなちらし書き」に
続くような基礎からの「かな書道」や、古典臨書、書道史などへの展開が以前より期
待されていることは真摯に受け止めており、できることから始めていきたく鋭意準備
中です。
 まずその手始めとして誌面充実を期し、表題の言葉「寺子教訓の書」寛政三年(一
七九一)について考えてみました。これは「十字を写すことによって百字分を学ぶよ
うな効果がある」とも、「十字を写せたのなら今度は百字を学ぶ力がついているもの
だ」とも解釈可能な言葉です。この「実り」には、毎月様々な言葉が並びます。その
言葉について読みや意味について知るだけではなく、さらにそれをイメージしたり、
深く考え自分なりの意見を持ったりすることで、限られた時間の中で書を十倍学ぶこ
とになります。私もこれからは課題の言葉にお決まりの読みや意味を掲げるだけでは
なく、私見も混え文字や書を紹介消化していこうと思っています。「実り」が今後共、
会員の皆様と共によりよく成長していけることを願っております。