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基本点画とはなにか(2015年5月号)

 基本点画とは、文字を構成する元となる点や画のことです。「 一 」は、代表的な基本点画ですが、これひとつ書くにしても、トンと打ちこみ「起筆」、スーと運筆し「送筆」、またトンと筆を今一度紙面に押さえて「収筆」します。この一連の動きに加えて、右上がり過ぎないようにとか、太さはこれ位、とコントロールするとなると、手指の運動としてはかなり難しい作業となります。
 「 一 」以外にも、「(画像/点) 」点や「 (画像/転折)」転折、「(画像/縦画抜き) 」たて画抜き等々、文字を書く際には実に様々な基本点画を用います。ただ読めればいいだろう、というのなら、「 一 」はスッと横に引っぱり、「(画像/点)」はポンと打つだけでよいのですが、「美しく」書こうとするなら、前述のような細かい手指の動きをする必要が生じてきます。
 思考を伴う手指の動きは、脳の前頭葉に関わる活動です。細かい手作業をするとボケにくいというのはこのためです。文字を書くといった作業は、些細な動きに見えます。しかし、デジタル画像でも精細な方が、粗い文字よりも容量を必要とするのと同じく、一点一画の丁寧な書きぶりは、それだけ脳を大きく動かしているのです。
 パソコンやスマホで文字を書こうとするのなら、この「一」も「(画像/点) 」も指の上下運動だけで可能です。ボタンを強く押したり弱く押したりするにかかわらず、美しい点画が書けます。特に基本点画の中で難しいとされるのが「(画像/はね)」はねです。ロボットに筆を持たせてこの「はね」を書かせようとするとうまくいかないそうです。筆の腰の弾力を脳の体性感覚野(頭頂葉)が感知し、リズムに乗って(脳の右半球の活動)、しかるべき方向へ(頭頂葉)に筆を向け、上方向に徐々に筆を上げていく(立体の構築、これも頭頂葉)、といったことを同時に行うのだから「はね」は難しいのです。
 基本があったら応用もあります。例えば「たて画抜き」ひとつをとってみても、スーと先が鋭るように書いたら「懸針」、フワッと先が丸くなるように書いたら「垂露」などといいます。手指の動きのバラエティの分だけ点画の表情は豊かになります。文字を美しく書くということは人の脳や心にとってどういう意味があるのか知って習字をすることも大切なことです。