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筆の洗い方(2017年2月号) [2017]

 筆巻きの中を見ると、だいたいその人がどの程度の書き手であるか分かるものです。どんな種類の筆を持っているか、というより、その手入れの仕方で道具をどう使いこなしているかが見えてくるからです。
 最近、筆は洗ってはいけないのですか、と訊かれることがあり驚きます。筆は洗わなければ翌日にはカチンコチンに固まってしまい、使い物にならなくなります。これは固形墨を磨ったものでも墨汁でも同じことです。
 想像するに、学校での習字の時間に大勢が一度に筆を洗うと、その分授業の時間が確保出来なくなるとか、流し場が汚れたり、時には詰まってしまうことを恐れて、「学校では洗わない」とされていることが、いつの間にか「筆は洗わない」となってしまったのではと疑っています。学校でも、道具の手入れを学ぶため、筆は洗ってもよいのではと思います。また、濡らした紙で筆を拭くという方法もありますが、これは筆のベタつきをとりながら、毛を整える際に行う一時的な手入れであり、根本的な洗い方ではありません。
 筆には大きく分けて、その根元から順に腰、腹、先という部分があります。紙に接するのは先だけだからといって、腰や腹の部分は使わないということではありません。筆の腰のバネを効かしてそれを腹を通じて先に伝えるのです。筆の腰のバネをリズムに変え運筆をするからこそ、書が目に見える音楽になるのです。筆の持つこのデリケートな機能を発揮させるためには腰から丁寧に洗うことが必要です。
 筆には様々な種類がありますが、一般に最低二分の一以上はおろします。おろしたところまで洗わないと、筆が割れる原因になります。筆の根元の方に毛細管現象で墨がたまった筋が残らないように洗うことが大事です。洗い過ぎも注意です。墨の膠分(最近では合成糊の場合も)をとり過ぎ、またごしごしとしごきすぎると毛麟(鱗のような毛のギザギザ、これが墨の含みや吐き出しに大きく関係している)を痛めてしまいます。おろしたての筆は毛の油分が多く腰が弱いものですが、使い込んでいくうちに、腰に張りが出てきます。筆は使い込み、手入れをしながら育てるものなのです。
 寒さの厳しいこの時節、筆を洗うのは骨が折れます。自らを鍛えてくれる筆に感謝し、大切に扱っていきましょう。