SSブログ

つけペンを使う意義(2021年6月号) [2021]

 硬筆の筆記具といえば、シャープペンシル等がよく使われています。最近では、常に芯先が尖っている状態を保つために芯が回転するように作られていたり、書いている間、どのような角度から強い筆圧がかかろうとも芯が折れないように設計されているものまであります。パソコンで手書きすれば滑らかに補正してくれる機能もついていて、手の器用な細かい動きを高めなくともそれなりの線が楽々書けてしまいます。ただ、これらについては、手の器用さが失われるのではないかという懸念の声も聞かれます。
 つけペンは至ってアナログな筆記具です。このつけペンの歴史は長く、古くは紀元前四世紀の葦の先を削ったペンにまで遡ります。この葦ペンの先は硬く、七世紀には先が軟らかい羽根ペンが使われるようになります。今日、用いられているようなペン先は一八三〇年にイギリスのペリーが作製したとされています。このペン先は柔軟性が与えられるように設計されていました。
 日本で初の国産ペン先が開発されたのは一八九七年のことです。実用上も毛筆が主流であった日本において、硬筆の需要が徐々に上昇しており、国産ペン先の開発に携わった石川ペン先製作所(現ゼブラ)は、第一次世界大戦終了後の不況時代も、機械の増設、作業員の増員がなされ、その生産量は増加していったといいます。第二次世界大戦中もペン先はよく売れたようで、特に海軍がよく買っていたという話があります。これは海軍が多く書き物をするわけではなく、戦地にペン先を送る際に船が途中で沈められてしまうことによるものだったそうです。どちらにせよつけペンは、そんなに遠い昔ではない頃、日常実用の筆記具だったわけです。
 つけペンを使ったことのある方は分かるでしょうが、最初は書きづらく感じることもあります。ペンの傾け方、筆圧のかけ方を上手に調整しないと滑らかな線が描けません。また時々、瓶にペン先をつけてインクを補充するといった毛筆の墨つぎのような作業も加わります。ある意味で扱うのに技術が必要になってきます。しかし、これを使いこなすことが出来れば様々な硬筆を使う基礎力も同時に身につくことになるので、硬筆の稽古としては得策といえます。ほんのちょっとした表現の差が大きな違いとなる手書きの中で、こうしたアナログの道具は時に力強い味方ともなることでしょう。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。