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同音の漢字による書きかえ(2022年7月号) [2022]

 「手帖」と「手帳」、「衣裳」と「衣装」、「遺蹟」と「遺跡」。どちらが正しいのでしょうか。これは実はどちらでもよいです。それでは、なぜこのような複数の書き方が存在するのでしょうか。
 戦後、GHQは日本の国語改革を推し進めました。その報告書には以下のような一節があります。「現在の日本文字の如く、暇のかかる表現と通信の手段を弄するといった贅沢なことをなし得る近代国家が一つでもあろうか。われわれは日本文字の徹底的改良が必要だと考える。日本文字は学習上恐るべき障碍をなし語学や数学、自然科学や社会科学の学習に振り向ける時間が初等教育の間、日本文字を学びあげるために失われる。」として、GHQは日本の文字のローマ字化をも提案したが、日本側の抵抗もあり漢字かな交じりの日本語は守られることとなりました。
 ただ、五万ともいわれる漢字のすべてを日常普通に用いることは一般の生活の上でも負担となるため、昭和二十一年、一八五〇文字の当用漢字が制定されました。この当用漢字は日本の文字をこの漢字ですべて表そう、という制限色の濃いもので、例えば「拳」の文字は当用漢字に含まれないため「けん銃」と表記するなどしました。昭和三十一年には、国語審議会が当用漢字の使用を円滑にするため、当用漢字以外の漢字を含んで構成されている漢語を処理する方法の一つとして、当用漢字の中の同音の文字で置き換えることを示しています。それが冒頭の例です。ちなみに前にある方が本来の漢字であり、後の方が書きかえによるものです。ですからどちらでも正しいことになるわけですが、何が違うのか、といったことを知っておくことは書を学ぶ者にとっては必須です。この書きかえの一覧には「破摧」「蹈襲」「耕耘機」などの書きかえ例なども示されています。これはそれぞれ「破砕」「踏襲」「耕運機」ですが、このあたりになると書きかえの方が当たり前となり、本来の漢字はほとんど見かけない程となっています。
 書をすることは文字を美しく、また豊かに表現することにありますが、それと同時に文字に対する理解を深めていくことも大切にしなくてはなりません。