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学ぶ意欲(2022年10月号) [2022]

 何かを学ぼう、修得しようとすれば、相応の気力、体力が必要です。学校では様々な教科があり、成績がついたりしてこれも動機づけとなります。受験では、国語、数学、理科、社会が課されることが多いのですが、書道の実技はあまりお目にかかりません。受験科目であれば、当人のキャリア形成のためですからモチベーションは上がることでしょう。書道の実技は点数化することが難しいのです。上手に書けることイコール前頭葉の発達ではなく、上手に書けるように頭をひねること自体が書を能くすることであり、それは脳の器をなし、他の教科を修得する際の意欲ともなって現われてくるものです。
 ―――私はよく、どうしてこんなに書くこと(もちろん手書きのことだ)が好きなのだろうと自分自身に問いかける。知的な作業にはたいてい空しさがつきまとう。ところが目の前に(日曜大工の作業台みたいに)美しい紙と良いペンが置かれているのを見ると、嬉しくなって、その空しさを忘れてしまうことがよくあるのだ。―――これはフランスの言語学者ロラン・バルト(一九一五~一九八○)の言葉です。
 手書きと、パソコンでタイピングして文字を書くのとを比べると、手書きの方が前頭葉の活動が活発になります。前頭葉は計画、思考、推論、注意、抑制、情操、創造、学習、意欲といった人間らしい高次元の内容を処理する働きが集中しています。よく考え、手で文字を書くことは、何かを学ぼうとする際の、とってもお得な方法といえるのです。
 今月号では年間賞が発表されています。受賞された方々は日々の稽古に意欲的に取り組んでおり、きっと書の場面以外でも、素晴しい活躍をされていることに違いないでしょう。書を学ぶ意義をしっかりと体得され、これからも益々、書を享受されることを祈念しております。